発掘インタビュー|山下泰裕さん(柔道)

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あの頃、あの人はこんなことを言っていた?

2017年6月、全日本柔道連盟の新会長に選ばれた山下泰裕さん。大学の教職とともに全日本柔道強化ヘッドコーチとして指導していた36歳のときに、「ひろば」で語っていたこととは…?

やました・やすひろ
1957年、熊本県生まれ。世界選手権3連覇、ロス五輪無差別級優勝を果たし、1985に現役選手を引退。現在は母校・東海大学の副学長、日本オリンピック委員会理事、全日本柔道連盟副会長を務める。

――先日の全日本柔道選手権大会(93年)で5連覇を果たした小川直也選手に対して、山下さんは「攻めが足らなかった」という評価をしていましたが、それはメンタル面での弱点を指摘したのでしょうか?

山下:いや、弱点と簡単には言えるものではないと思いますが…。たとえば私たちは試合の結果が芳しくない際に「気力が不足している」という評価を受けることが度々あります。でも気力が充実して闘える、反対にそうならずに迷いが出ることは、勝負の世界ではよくあることです。私は、その中でその人らしさを発揮して闘うことがとても大切だと思います。小川について言えば、今回「なぜ小川らしさを発揮できなかったか」を考えることが必要ではないかと考えます。

――日本柔道連盟の選手強化の基本方針はどういうものでしょうか。

山下:勝つために必要なものはなにか、勝つためにはどうしたらいいか、あらゆることを細かく見直しているということです。ただがむしゃらに練習すればいいというものではありませんね。

――具体的には?
山下:外国遠征する時に日本食を持っていかないということをやっています。世界のどこへ行っても、「そこがホームグラウンドだ」という気持ちを持たなければ、とても勝つことはできないと思うんです。

それから、柔道の専門家が集まって考えるのでなく、栄養管理、心理面、筋力トレーニング、戦略指導といった、さまざまな面で専門家の協力を得ててやっていこうという方針です。

――心理面ですと、バルセロナ五輪で各種目の日本選手が、かなりリラックスしてプレイしたことの成果という評がありますね。

山下:リラックスというとちょっと違うような気がするんですが。リラックスしたから勝てるということではなくて。私は「集中力」、どれだけ集中できたかにかかっているように思うのです。

――スポーツ界にプロ化の波が押し寄せている状況のなか、アマチュアリズムはどのような意義を持つと考えていますか?

山下:私たちは、お金を儲けたいと思ってスポーツをやっているわけではない、それはプロ選手にしても同じでしょう。しかしスポーツに打ち込んできた選手が、現役を退いたら何も残らない状況が良いとは思いません。また実際、選手の育成やいい成績を狙うなら、それなりのお金も必要ですし。その意味で、アマチュアに対しプロは汚いものだという見方は正しいでしょうか?

――スポーツで大きな成績をあげた人が、アマチュアであるということで、経済的にほとんど保障がない現実は変えていくべきだと思いますが。

山下:ある時某新聞の運動部が、海外遠征等に会社の出張扱いで参加するという事例があり、対して「アマチュアリズムに反する」という論説が出て、私はすぐ電話で抗議したことがあります。それがアマチュアリズムなら、国外試合はお金持ちしかできないということになりますし。

――かつて柔道で日本一となった木村政彦さんがプロレスに転向された時は驚きました。でも、今はその事情もわかるような気がします。

山下:木村さんは私も尊敬していました。一度対談をした際に「君はいつまで柔道をやっていくつもりだ? 柔道じゃメシは食えないよ」と言われてガッカリしたことがあります。でも私も、選手時代と今では考えは変わってきている部分があると思います。正直なところ、私にもアマとプロの問題はどう考えるべきか、わからないところもあります。

――国や自治体は、もっとスポーツに対して保障をすべきですね。

昔からくらべると「強化」には金が出るようになりました。ただ、優秀な成績をあげた選手が報奨金でスポーツカーを買ったりするのはどうかなと考えちゃいますが。スポーツはただ楽しむということだけでなく、人間を成長させる過程でフェアプレイ精神を養うとか、文化としての大きな役割も持っているんですよね。競技スポーツだけでなく生涯スポーツという面もあるわけですから、この文化的役割を大切にしたいと思います。

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