東京五輪2020|コロナ禍でのオリンピックの強行開催

新型コロナウイルスの世界的流行(パンデミック)の最中に強行された17日間の東京五輪が8月8日に閉幕しました。

開幕前日の7月22日は、東京の新規感染者数は1979人、首都圏では3000人を超えました。大会期間中の8月5日には東京で5000人を上回り、医療現場は逼迫し、自宅療養者が増加し続ける状況にもありましたが、最後まで五輪中止の基準は示されませんでした。

また開幕直前に朝日新聞社が実施した世論調査では、「開催に反対」が未だに55%(賛成33%)、「安心・安全の大会」が「できない」が68%(できる21%)となりました。いざ開幕を迎えてからは、専門家からも完全に接触と感染を防ぐことは不可能であると指摘されていた無観客や「バブル方式」にしても、無数の穴があることが日々明らかとなり、大会関連の感染者が確認され、選手村でクラスターも発生しました。

他方で、東京に五輪を招致する段階から世界に発信されて来た、「復興五輪」「アンダーコントロール」「コンパクト五輪」「温暖で理想的な気候」など、そのどれもが事実と異なるものであったことは今では疑いようがありません。

さらに、昨年、安倍首相(当時)が1年延期を決定してからも、森喜朗前組織委員会会長による女性蔑視発言から、開閉会式のディレクターが過去にナチスによる、ホロコースト(大量虐殺)をコントの題材にしていたとして解任されるに至るまで、人権感覚の欠如を理由に、辞任あるいは解任される不祥事が相次ぎ、「呪われた五輪」とも言われる体たらくを世界に晒す結果となりました。

東京五輪は、コロナ禍によって翻弄されただけではなく、IOCをはじめ、組織委員会、東京都、JOCが五輪の理念を体現する場としての位置づけをしてこなかったことが、コロナ禍の開催を道理のないものにし、様々な問題を浮き彫りにする結果となったといえます。

競技レベルでいえば、スポーツの基盤であるフェアネス(公平、公正)が著しく欠けた大会となりました。

世界各国での参加選手の選考にあたっても、ランキング決定大会の開催が延期されたり、代表選手選考大会が大幅に遅れました。また、オリンピックに向けたテスト大会も満足に実施できない、少なくない事前合宿も中止となるといったことばかりでなく、感染拡大状況の違いによる各国競技者の練習環境の不平等、競技者やチームスタッフのワクチン接種での格差が明らかに存在し、フェアな条件が確保されませんでした。

「オリンピズムの目的は、人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指すために、人類の調和のとれた発展に役立てることである」とオリンピック憲章に明記されていますが、五輪の開催によって人々の命や健康が脅かされることのないよう、コロナ禍の東京大会によって、オリンピック運動の課題が可視化されたことを契機に、オリンピックの理念を実現させていく未来志向型の議論を進めていくことが不可欠であると考えます。(新日本スポーツ連盟理事長・長井健治)

「スポーツのひろば」2021年10月号より

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