学校プールと水泳指導の危機?

公立小中学校の8割以上で校内にプールがあり、「校内のプールで泳ぐのは当たり前」と思われてきました。しかし、その当たり前が変わろうとしています。

東京の葛飾区が今年1月に発表した「方針」では、今後改築・改修する小学校にはプールを作らず、区営や民営の屋内プールを活用することになっています。すでに神奈川県の海老名市は小中学校のプールを全廃し、市内4か所の室内プールを利用しています。校外の室内プールへ行くには、バスや徒歩で移動するので、授業2コマを使うように変わっています。

校内にあったプールはほとんど屋外プールで、寒暖や雨など天候の影響を受けるのに対し、室内プールは、水温・室温ともに安定していて利用期間も長く、教員以外に水泳指導員の協力を得られる利点があります。(「ひろば」編集長 西條晃)

今なぜ? 解決の方法は?

現在の公立小中学校のプールは、1970年代から1980年代半ばに建設されたものが多く、50年前後を経て、改修・改築の時期に来ています。改修・改築、建て替えに際しては、建築や管理・運営にかかる費用とともに、屋外プールから室内プールへの時代の変化を考慮する必要もあります。

この問題を解決するには、次の3つの方法が考えられます。

①公設や民営の室内プールを活用する。
②従来のプール(ほとんどは屋外)を改修して使う。
③学校と市民が共同利用できる室内・温水プールにする(学校プールの市民への開放)。

葛飾区や海老名市は、①の公設や民営の室内プールを利用するという例です。私が住む品川区は、②と③の併用になっています。多くの小中学校には校内に屋外プールがあります。新設の小中一貫校にはすべて室内・温水プールがあり、6校のうち4校は市民に開放し、通年使うことができます。中学校も室内・温水プールがある1校だけ市民に開放されています(他に公設の室内プールと、夏だけの屋外プールがある)。

他の方法としては、拠点校に室内プールを作り、複数校で共同利用するということも考えられます。どの方法をとるかは区市町村の事情によって異なるでしょうが、すべての小中学校で水泳指導が行える体制を整えることが不可欠です。

急いで改善すべき問題は?

憂慮すべき問題、早急に改善すべき問題は次の点です。鴻巣市は2022年からプールの廃止にともない、中学校での実技指導を止め、事故防止の心得を授業で取り上げるだけになりました。海老名市も中学校でのプール指導を中止しました。これは、指導要領(注を参照)の最低限をクリアするための「苦肉の策」で、墜落寸前の超低空飛行のようなものです。

教室での座学や、水のないウレタンマットの上で、事故防止の体験ができるとは思えません。私は北海道で育ちましたが、学校プールも公営プールもないところでした。小学生の娘に教わり、本で独習して泳げるようになりましたが、苦労したのは『水の感覚』をつかむことでした。

事故防止の心得を水の中で体験できるようにするだけでなく、水泳の実技指導も再開すべきだと思います。まだ校内にプールのない10数%(6校に一つ)の小中学校でも、水泳指導が行えるように改善することも急務です。

注:中学校学習指導要領(2017年)では、適切な水泳場の確保が困難な場合には、取り扱わないことができるが、事故防止に関する心得については、必ず取り上げることになっています。

「スポーツのひろば」2023年7・8月号より

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