100 歳までスポーツを続けるのは可能か?
私事で恐縮ですが実例をあげましょう。私の父は昨年101 歳で天寿を全うしましたが、前日には自分の足で歩いて選挙の投票に行き、当日は朝刊を読み、2 階の食堂で朝食を摂り、花に水やりをしていました。電動自転車に乗って百歳直前まで区内の弓道場へ行き、弓道を楽しんでいました。だから健康寿命を伸ばしてゆけば、弓道・水泳・テニスなど高齢でもできるスポーツを続けることは可能だと信じています。
お迎えが来る日まで、寝たきりの「ネンネンコロリ」ではなく、スポーツもできる「ピンピンコロリ」の理想的な人生を実現できる時代がきています。寿命は遺伝だからと諦めず、遺伝よりも環境や生活習慣の方が大きな要因だと考えて、自分の生活と環境をスイッチしてみませんか。
健康寿命とはなにか?
「ピンピンコロリ」の人生を送るには、何よりも健康寿命を長くすることです。平均寿命と健康寿命に大きな差があること、「健康でない期間」が男性で約9年、女性は約12年あることはすでに書きました(「スポーツのひろば」2019年7・8月号20頁)。その「健康でない期間」、スポーツも自由にできない、日常生活にも支障がある期間を短くするだけでなく、平均寿命をも超えて、健康を続けることを目指しましょう。
ところで健康寿命とはなにかを詳しく知りたいと思いませんか。①辻一郎の「のばそう健康寿命」2004年岩波アクティブ新書に定義が載っています(表1)。WHOが健康寿命を発表したのが2000年ですから、いち早く健康寿命をテーマに取り上げた本です。この本では、自分自身で健康寿命を延ばすために、病気の予防・老化を遅らせる・運動をする・介護予防・老いを楽しむなどが提案されています。
のばそう健康寿命 | 辻 一郎 (岩波アクティブ新書)2004年
健康寿命は個人差が大きい
日ごろから「人の命の重さには差がない」、人間はみんな平等だと思っていませんか。でも「命の長さ」には大きな差があるんです。②NHKスペシャル取材班「健康格差 あなたの寿命は社会が決める」(2017年講談社新書)。
健康格差 あなたの寿命は社会が決める | NHKスペシャル取材班(講談社新書)2017年
命の格差、健康格差を決める第一の要因は、人とのつながり、人間関係だというのが最近の研究成果です。死亡や病気など健康に関する事象を調べ、「長生きするためのライフスタイルは何か?」を研究する学問を「疫学」と言います。
その疫学によると、タバコや酒、運動や肥満などよりも、「社会とのつながりを持つこと」が長寿に深く関係しているということです。③イチロー・カワチ「命の格差は止められるか」2013年小学館新書、④村山洋史「つながりと健康格差」2018年ポプラ新書を読んでみてください。
命の格差は止められるか: ハーバード日本人教授の、世界が注目する授業 | イチロー カワチ(小学館101新書) 2013年
③イチロー・カワチは、人間関係と健康のメカニズムについて、「人とのつながりがその人の行動を決める」、「人と交わるだけで健康になる」、「つながりから生まれる支援の力がある」と述べています。中村雅俊の歌に「ひとはみな、一人では生きていけないものだから」(山川啓介作詞、いずみたく作曲)の「ふれあい」という一節があったのを思い出しました。
「つながり」と健康格差: なぜ夫と別れても妻は変わらず健康なのか | 村山 洋史 (ポプラ新書) 2018年
④村山洋史の本には「なぜ夫と別れても妻は変わらず健康なのか」という刺激的なサブタイトルがついています。夫は職場=会社中心のつながりが退職で切れてしまうのに比べて、妻は個人的な多くのネットワークをもっているからとしています。
健康寿命を伸ばすには?
健康寿命を伸ばすには、第一に「人と人のつながり、人間関係」ですが、それを前提として、運動すること、スポーツが健康寿命を伸ばすと説くのは⑤近藤克則「長生きできる町」(2018年角川新書)です。特に「第4章健康寿命を延ばすにはどうすればいいのか」では、グループで運動する、笑う、運動しやすい環境を作ることが推奨されています。
「運動が苦手」ならマネージャーや手伝いのボランティアでも良い、スポーツを見る、支えるだけでも他人とのつながりができて健康になると述べています。
ちょっと専門的な本になりますが、⑥深代千之・安部孝編「スポーツでのばす健康寿命」(2019年東京大学出版会)には、健康寿命を延ばすための運動と栄養の知識がつまっています。
スポーツでのばす健康寿命: 科学で解き明かす運動と栄養の効果 | 深代千之,安部孝(東京大学出版会)2019年
あやしい健康情報に騙されないために
新型コロナ・ウイルスとはなんの関係もないのに、トイレットペーパーが町から消えてしまったように、噂や口コミなど怪しい情報が氾濫しています。健康情報についても、テレビや本の中で怪しい情報が出回っています。
まちがった健康情報に踊らされないために、どこがどう間違っているのかを検討した本があります。⑦草野直樹「健康情報・本当の話」(2008年楽工社)です。皆さんご存知のNHK「ガッテン」にしても、まるまる信じてはいけないことが分かります。
「スポーツのひろば」2020年5月号より