イギリス労働者スポーツ運動史|スポーツ本Review

新日本スポーツ連盟の前身、新日本体育連盟が結成されたのが1965年。その40年以上も前に「スポーツの母国」イギリスでは、労働者のためのスポーツ組織が誕生していた。それが、イギリス労働者スポーツ連盟であり、そこから別れた全国労働者スポーツ協会(のちに「イギリス労働者スポーツ協会」と改称)であった。

イギリス労働者スポーツ運動史 一九二三-五八年
青沼裕之(著)青弓社(2019年)
3,600円+税 A5判 300ページ

本書は、2つの労働者スポーツ団体が戦間期に誕生し、ファシズムの台頭や第二次世界大戦の荒波のなかで活動し、解散に至るまでの歴史的経緯を両団体の内部史料から明らかにしたものである。

イギリス労働者スポーツ連盟は、設立当初、1サイクリングクラブを除いて加盟組織の大半が労働組合・労働党支部であった。しかし、スポーツを組織していく中で次第に会員を拡充させていき、礼拝のために禁止されていた日曜日に組織的なフットボールリーグ戦の実施をロンドン議会に認めさせる等の成果をあげた。イギリス労働者スポーツ協会も、スポーツ運動の政治への従属を批判したり、スポーツへの参加を権利としたりするなど、現代のスポーツ運動・スポーツ権につながる成果を残した。

しかし、両団体の政治からの独立は不十分で、その活動はコミンテルンやイギリス労働組合会議の意向に翻弄され続けた。予算管理もずさんで、収入に見合わないほどの活動の拡大が、運動に終止符を打つ直接的要因となった。

労働者スポーツ運動の歴史的経緯や、過去の運動の成果や問題点を知ることは、新日本スポーツ連盟の運動を継承・発展させていくための具体的な手掛かりを与えてくれるのではないだろうか。(中村哲也)

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