「運動オンチだからスポーツが苦手…」と思っている人へ

みんなでみんなができるように!! 体育教育の実践研究から

文=児玉 望(学校体育研究同志会)

どうして運動が苦手な子が増えているのか?

「好きな教科は?」と聞くと、「体育」と答える子どもたちが30年前は、とても多かったのですが、最近は、そうでもありません。運動が好きな子と嫌いな子の二極化が進んでいます。

原因は、3つの「間」の減少といわれています。仲間、時間、空間です。子どもたちの遊びの変化(ゲーム機が中心)や自由時間の減少、そして環境の変化です。ライフスタイルや保護者の考え方が30年前と大きく変わってきていることで、外遊びの中で培われる様々な運動経験や感覚を身につけないで小学校に入学する子どもが、とても増えてきています。運動が得意な子は「体育が好き」と言うのですが、そういう子どもが減っているのが現状です。

それでは、体を動かすことが苦手な子が多い中で、どのような「体育の授業」を行うと「運動大好き」な子に育つのでしょう? 全員の教師ではありませんが、私たち学校体育研究同志会の実践研究の中から、その一部を紹介したいと思います。

感覚作りからのスタート

私たちは、体育を学ぶ目的を「体力づくり」とは考えていません。音楽や美術などと同じように、人類が創造してきた文化の一部だと考えています。だから、例えばマット運動を学ばせるときに、「マットの上の身体表現」と捉えて指導の工夫をしています。もちろん、球技などは、それ自体にスポーツとしての楽しさや面白さがあります。

そのように考えたときに、器械運動、球技、その他の運動にもその運動・スポーツ固有の楽しさがあります。その運動やスポーツの楽しさは何か、(球技ならば、得点を入れたときの楽しさを味わわせることがとてもキーポイントとなります)を考えます。そして、子どもたちの生活経験や実態、教材にどのような工夫を加えたらよいのか、学ばせ方はどうすればよいのか、グループやチームの構成、人数は…などを考え、授業プランを考えていくのです。

その際に大事になってくるのが、「感覚作り」です。つまり、その運動・スポーツにあった体の動きを、どのようにして、作り出すかです。体は筋肉で動きます。でも、どのように動かすかは、脳と神経が大変大きな役割を果たしています。

運動経験が未熟な子ほど、この脳と神経を活性化するのに有効な感覚作りのための初歩的な動きや運動を繰り返し行います。もちろん、反復トレーニングでは、子どもたちは直に飽きてしまいます。ゲーム感覚で楽しく取り組めるような様々な感覚作りや動きを初歩の段階でたくさん取り入れます。これですぐに運動感覚が身につくでしょうか?

仲間とともに、上手くなる

もちろん、黙々と一人でトレーニングすることも発達段階によっては必要かもしれません。しかし、小学校の発達段階では、「仲間と共に」を私たちの研究会ではとても大切にしています。

グルーピングするときも、あえて、その動きや運動が得意な子、そうでない子を一緒のグループとします。上手にできる子は、なぜその運動ができるかがわかっていないことも少なくありません。「なんとなくできちゃった…」という子も数多くいます。

そこで、まだできていない子とできている子の動きや運動の様子を観察し、お互いに見合う中で、「できる」ようになる道筋(コツ)が「わかる」ように授業を組み立てていくのです。

教師の側が一方的に動きや運動技術を教え込むのではなく、子どもたちの関わりの中から、動きや運動のコツを見つけさせていくのです。そうすることによって、子どもたちが仲間と共に自主的に学ぶことができるようになってきます。動きや運動のポイントがわかれば、お互いに学び合うことで高め合うことができるのです。

もちろん、授業ができる時間数の関係で(最近の学校では、その教材にかける指導時間がある程度決められています)教師側が教えることや、子どもたちに考えさせることを取捨選択して指導していきます。

うまくなれば、もっとやりたくなる!

このような授業の展開をしていくと、運動が苦手だった子が、「できる」ようになったことが実感できます。また、仲間からも「うまくなったね!」と褒められることでさらに意欲が増し、その運動やスポーツに取り組むようになります。そうなれば、しめたものです。

「好きこそものの上手なれ」のことわざにもある通り、その運動やスポーツが好きになれば、どんどん上達していき、さらに楽しくなっていくのです。

授業の最後には、互いにうまくなったことを認め合える発表会や、球技だったらリーグ戦などをしてお互いの成長を確かめ合います。そうすることによって、運動大好き、スポーツ大好きの子どもたちをたくさん育てたいと思っています。

大人になり、自らスポーツを楽しめる、また、スポーツや運動を世界中、すべての人々が楽しむためには、どのような世の中を作り出していけばよいのかを考えられる大人に育ってほしいと願っています。

「スポーツのひろば」2017年12月号より
「スポーツのひろば」2017年12月号より
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