市民がスポーツを楽しめる空間となったパリ
行ってみないとわからない! 迫力のパリオリンピック観戦と競技場外の「表と裏」
文=石川正三(新日本スポーツ連盟全国連盟理事)
8月6日、初めて見る水球は準々決勝「カナダvsスペイン」。観客席中段だったが最前列で観戦。双方の応援団が盛り上がる好ゲーム。スペインの勝利に応援団の盛り上がりは最高潮。「イタリアvsオランダ」のゲームは得点が拮抗し、体がぶつかり合う格闘技の様相でした。オランダの勝利に、オレンジ色のファンは大騒ぎ。
8日は陸上競技。なんと前から7列目で、選手がすぐそばに見えます。女子7種競技のハイジャンプが目の前で行われ、最高192㎝をクリア。何といっても「男子100M×4」のリレー。日本チームの第2走者が目の前にいて、第1走者サニブラウン選手からのバトンパスが目の前で。写真を撮ったのですが、前席の人が立ちあがり、第2走者が消えてしまいました。どうしてくれる?
9日は女子ホッケー。「アルゼンチンvsドイツ」は2対2でPK戦になる白熱した試合で、アルゼンチンが勝利。ホッケーの試合も初めてで、スティックが体に当たったり、ボールが固く、ペナルティストローク(サッカーのフリーキック)の時は防護マスクをしたりで、痛そうだなと思いながらの観戦でした。
FSGTと交流(平和マラソンのつながりから)
こうした試合の合間に、FSGT(フランス勤労者スポーツ・体操連盟)前会長のエマニュエルさんやスタン市陸上クラブのイザベルさん、エルベさんに招待された競技場外での取り組みに参加しました。
最初は6日午前中ノアジ・ル・セック市の「スポーツを通じた平和の推進に取り組むアスリートたちの証言。平和構築におけるスポーツの役割について」の取り組みです。ちょうど、広島-長崎反核平和マラソン出発の日だと、エマニュエルさんと話題に。
市長さんに原水爆禁止世界大会のバッジをあげると、すぐ胸につけて、日本からと紹介されました。また、広島?長崎反核平和マラソンに参加したクレモンさんとも再会し、原水協展示用の広島、長崎原爆写真パネルを渡しました。各地から50名近い子どもたちが招待され、意見交換やスポーツ体験をする取り組みです。
7日夕方からはイザベルさん、エルベさんの案内でスタン市の「フランス村」です。広大な公園にスポーツ体験ができるコーナーがあり、柔道のメダリストが来てサイン会も行われていました。湖ではカヌーやヨットも体験できます。演奏会も行われ、そのステージでは音楽に合わせてブレイキンも。
驚いたのは規模だけでなく、大きな塔も立てられ、30人ほど乗れる360度回転する展望台が作られていることです。まさにスポーツ体験、文化を中心とした『お祭り』です。
市民のための「スポーツ交流の場」
9日には、「クラブ・フランス」という企画で、テーマは『みんなのためのスポーツ活動』です。スポーツ庁、スポーツ協会、ドーピング機構など、各スポーツ団体(もちろんFSGTも)が企画・運営するブースが設置され、いろんなスポーツ体験ができる場所です。
フェンシングは、剣で光った部分を突くというゲーム感覚のもの、陸上はスタートの反応の速さを計測、その他、ビーチバレー、クライミング、ボクシング、水泳など、広大な敷地での取り組みです。
FSGTは体操、ミニパルクールが体験できるスペースと小さな子どもがお母さんと一緒に体を動かせるスペースの2つを運営し、指導者は日本にも来たローラン・ムスタールさんで、しばし携帯の翻訳機能で懇談。
競技場以外に各自治体で、オリンピックと平和、スポーツの役割、体験などについてこんなにも多く取り組まれていることは、日本のマスコミではメダル獲得に比重があり報道されないことから、来ないとわからない驚きでした。
開会式での、多様性を前面とした、伝統や芸術・文化が開く平和のテーマが表現された大きな枠組み、包容力が次の世代に引き継がれるためには、オリンピック停戦でオリンピックに結びつけるIOCの改革が求められるでしょう。
こうした「表(おもて)」と、ホームレスを排除して行われていること、開会式で雇われた非正規ダンサーの待遇差別、東京と同じような汚職が行われたことをウオッシュさせないよう「裏(うら)」にも目を開きつつ、次のパラリンピックでの選手の躍動に期待したい。
「ひろく開かれた大会」に希望!-市民に開かれたパリ五輪-
文=和食昭夫(新日本スポーツ連盟専門委員)
オリンピックの観戦は、今回ほど市民がスポーツとオリンピックに直接触れ合う機会がある五輪観戦は初めてでした。また、世界から集まった大観客の明るく友好的な雰囲気を含め、無観客の「2020年東京」五輪を経験しただけに、「オリンピックが戻ってきた」喜びを共有しました。オリンピックが大きな転換点にあることを承知で、あえて楽観的な希望を述べたいと思います。
実質4日間の滞在のなかで、この12月創立90周年を迎えるFSGTが他団体と共同で運営するオリンピックとアスリートを祝うイベントに3回参加しました。また、パリ市役所前広場パブリックビューイングは、私の想像を超えるものでした。
大型ビジョンを見る仮設スタンドがあるだけでなく、フリークライミング、車いすバスケ、陸上のスタートダッシュなどのコーナーがあり、多くの子どもたちがスポーツを楽しみながらオリンピックを応援する、子どもたちはきっとオリンピックは楽しいものだと実感すること間違いなし。とても心地よい空間でした。
もう一つの「市民のオリンピック」
私の万歩計は、8月7日、8日、9日の4日間で7万8千歩を示し、7日は24335歩と生涯新記録をマークしました。その最大の理由は、オリンピックの会場の外にありました。フランスオリンピック委員会、各自治体、各競技団体やFSGTなどの大衆スポーツ団体が共同して取り組んでいる、もう一つの「市民のオリンピック」ともいうべきイベントが競技場の外で行われており、その運営にかかわっているFSGTがその企画に私たちも参加できるようお世話してくれたからです。
国立公園などの広大な場所に、オリンピックを祝福し、スポーツ体験をし、メダリストの訪問と対話、クラシック音楽の演奏から深夜に及ぶダンスパーティまで、スポーツを軸として文化・芸術が一つになって、オリンピックを市民が自分たちのお祭りとして楽しむ取り組みが行われていました。
市民がオリンピックに参加する「これが本来のオリンピック」だという関係者の熱い思いが伝わってきました。「世界とともに市民にも開かれたより良いオリンピック」への希望を与えてくれたパリオリンピックでした。
東京2020とは違うパリオリンピック
文=和食悦子(新日本婦人の会松戸支部)
水球と陸上とホッケーの3会場とも、とても良い席で目の前で必死な顔、悔しがる顔、満面の笑顔の顔を見て、こちらも興奮して、国籍に関係なく全身で応援しました。
パリのオリンピックは日本とは違うと感じました。スタン市というところに行きました。市と市民の運動で勝ち取った公園でパブリックビューイングをやっていました。とても広く大きな池もあり、日ごろから市民の憩いの場となっています。
一番の印象は、多国籍の人たちが、小さな子ども連れで楽しんでいる様子にホッとしました。舞台ではクラシックの演奏もあり、その指揮をしていたのは閉会式の女性指揮者でした。演奏の曲に合わせたブレイキンの女性2人を見ている子どもが楽しそうにそれをマネしています。オリンピックを市民が家族ぐるみで楽しむ様子に、こちらも楽しい気分になりました。2020東京五輪とは何か違います。
TVで報道されないオリンピック番外編
文=白鳥 操(元 全国連盟理事)
観客席の拍手と歓声、時々起こるウエーブ。報道では味わえない熱気。現地競技場では素晴らしいプレイに接することができました。
TVでは報道されない「オリンピック番外編」(競技場の外の取り組み)に足を運びました。
7日、パリ市庁舎庭のパブリックビューイング会場へ。なんと人工マットで作られた陸上トラック、中では車椅子バスケ、卓球、バドミントン、スタートダッシュ、クライミングなどの体験が行われていた。それぞれに指導者と思しき人が。
夕方、スタン市へ。平和マラソンに参加したイザベルさん家族に案内され「フランス村」という企画に参加しました。パブリックビューイングは湖の中に。脇に作られた舞台では生バンド演奏が行われ、2人の女性がブレイキンを。舞台の下では子どもたちが真似を。
この時の指揮者は仏でも著名な指揮者ジウワニさん(※注参照)とイザベルさんが言っていたが、閉会式でも指揮をされていたと。柔道のメダリスト2人がサイン会を行っていました。湖ではモーターボートでつなぎヨットの体験、小さなゴールポストで子どもたちがシュート練習などなど多彩。
9日は、再びエマニュエルさんの案内で「クラブ・フランス」という取り組みに。広大な敷地で、オリンピック委員会、FSGTなどスポーツ団体による各種体験コーナーが行われていました。この日、エマニュエルさんは「マラソンの準備に」と。翌日マラソンコースでは男子レースが終わった後「市民マラソン大会が」。
『開かれたオリンピック』ということで、歴史的建造物が競技会場になったこともさることながら、市民向けのスポーツの普及企画に力が注がれていました。FSGTも地域の取り組みに大きく関与、市民権を得ている様子を知ることができました。残念なことは「オリンピック休戦」がかなわず、開会式の会長挨拶で触れられなかったことです。
※注:ザイア・ジウアニさんは、映画「パリの小さなオーケストラ」のモデルになったディヴェルティメント交響楽団を設立。設立時から音楽監督。閉会式でこのコンビが演奏を行った。今回のパリ五輪の聖火ランナー。
「スポーツのひろば」2024年10月号より