転換期のスポーツ政策を考える「スポーツ産業政策」を検討してみよう! 

日本のスポーツ政策は、従来の教育や公共性を重視した枠組みから、「稼げるスポーツ」を目指す産業化へと劇的な転換期を迎えています。政府はスタジアムやアリーナを多機能な複合施設へと進化させ、デジタル技術や他産業との連携を通じて収益性の向上を図る戦略を推進しています。

これに対し、この記事はスポーツが単なる営利目的の消費財となる現状に警鐘を鳴らし、本来の公共性や人権としての価値を問い直しています。新日本スポーツ連盟は、スポーツを「資本の論理」に委ねるのではなく、誰もが主体的に楽しめる未来社会の実現を提唱しています。また、現在のスポーツ振興政策の具体策と、それに対する批判的かつ建設的な展望を解説します。

日本のスポーツは、学校教育と企業スポーツを中心にして発達してきて、全体として教育性・公共性の強い性格を持っていると思われます。この点は欧米の巨大なスポーツ産業がある国とは違っていました。

日本のスポーツは公的な財源、または企業の財源によって補助される側にあったとも言えます。現在スポーツ庁と経済産業省などが進めているスポーツ産業政策は、これを根本から大転換するものです。

難しい言葉では「パラダイムシフト(枠組みの変更)」と言います。天動説から地動説への転換を「コペルニクス的転回」と言いますが、そう言っても良い大転換です。

わかりやすく単純化してみましょう。これまでのスポーツは主に行政(企業の場合も)からの補助金が必要な「金食い虫」(「コストがかかる」という言い方です)だったから、次はスポーツを「金を稼げる」(「富を生み出す」とも表現されます)成長産業にしようという大転換です。

政府はスポーツ市場規模を2030年までに15兆円にする目標を掲げていますが、その政策の中心は、①スタジアム・アリーナ改革、②デジタル技術の活用(スポーツDX)、③他産業との連携(オープンイノベーション)の三つです。難しい言葉ばかりで、よくわからないので、具体的に説明しましょう。

1 スタジアム・アリーナ改革とは

これまでの「体育館」や「競技場」は行政が運営し、しばしば赤字に転落していたと理由付けして、次は民間を活用して「金を稼げる」施設に変えようということです。新しいスタジアムやアリーナはこうなります。

スポーツの試合がない日もレストランや保育園・商業施設として利用、地域住民が集まる施設(スポーツコンプレックス)を作る。VIPルームや音響・映像設備を整え、スポーツ観戦でも儲けを出すなどです。もっと具体的に、例を上げて説明しましょう。

①エスコンフィールドHOKKAIDO(北海道)の場合

日本ハムファイターズの新球場ですが、北海道ボールパークFビレッジという約32ヘクタールもある広大なエリアの中にあります。

球場の周りには、ホテル・飲食店・ショップ、グランピング施設、プライベートヴィラ、温泉・サウナ、農業学習施設、子どもの遊び場、ドッグラン、花を楽しめるガーデン、自然の中でのアクティビティ施設などがあり、野球の試合がない日も楽しめる場所になっています。

野球では、選手を間近に見られるバッターズラウンジ、新庄監督が座るシートと同じ素材で作ったビッグボスボックス、友人や家族と観戦できるプライベートボックスなどVIP待遇の特別席をつくります。このほかファンを楽しませる多くのサービスがありますが、これらを合わせて「ホスピタリティ(おもてなし)」と呼び、このような形を次世代型のスタジアムと言っています。

ところで「ボールパーク」ってご存知ですか。米国の球場が典型的で、単なる野球場の枠を超えて、レストラン・ショップ・遊び場などを併設し、試合日以外も楽しめる、地域のシンボルでもあるエンターテインメント施設であり、野球観戦の拠点ということで、今後、日本の野球場はこれをモデルにしてゆくことになります。

②長崎スタジアム(長崎県)の場合

ジャパネットグループが主導するプロジェクトで、プロサッカークラブ「V・ファーレン長崎」のホームとなるスタジアム(約2万席)と、プロバスケットクラブ「長崎ヴェルカ」のホームとなるアリーナ(約6千席)に、ホテル・商業施設・企業を誘致する大規模なオフィスが併設されています。

サッカースタジアムは、ピッチまで最短5mを売り物にしています。客室から試合を観戦できるホテル、上空をジップラインが通過するスタジアム、夜のレーザーショー「ナイトミラージュ」などが特徴の複合施設です。

③ZOZOマリンスタジアム(千葉県)の場合

千葉ロッテマリーンズの本拠地としての野球場に、ショッピングモール、ホテル街、コンベンションセンター、シネコン(複合型映画館)、公園、ビーチ(野外コンサート、花火の打ち上げが可能)、オフィス街、大学、高校を含む新都市計画です。

④ビオアリーナ仙台(宮城県)の場合

プロバスケットボール「仙台89ERS」のホームとなるゼビオアリーナ(約4千席)で、これにフィットネスクラブ、テニスコート、フットサル場、飲食施設が集積しています。フィギュアスケート、アイスホッケー、バスケットボール、バレーボール、フットサルやライブも実施可能な施設です。売りは4面LEDのセンターマルチディスプレイ、VIPルーム完備だそうです。

事例の紹介はこれくらいにしましょう。日本各地でスタジアム・アリーナの新設・建設構想は進んでいます。別図には一部抜粋して掲載していますが、トータルではスタジアム34件、アリーナ45件です。読者のみなさんの地元でもスタジアム・アリーナの建設が進んでいるはずですから、その様子を調べて「読者のひろば」に投稿しませんか。事実を知らず、意見を言わないと、「声なき声は賛成とみなす」になってしまいます。

2 デジタル技術の活用(スポーツDX)

デジタル技術を使った新しい観戦体験を目指して、音響や映像設備を整え、スポーツへの没入感を得られるようにするなど、「見るスポーツ」の快適性を追求しようとしています。選手のパフォーマンスデータの販売、娯楽性を高めるアプリの販売、eスポーツの育成、「スポーツベット(賭け)」の導入も検討されています。まだ未確定の要素が多い分野とも考えられます。

3 他産業との連携(オープンイノベーション)

スポーツとIT、スポーツと健康・医療、スポーツと観光など、スポーツと異業種との連携を推進する事業です。

例えば、バスケットボールの秋田ノーザンハピネッツと協力して米を活用したプロテインバーを開発するとか、サッカーのいわきFCと協力して、スタジアム周辺の交通渋滞を緩和する、などといったことです。

スポーツと観光の連携がスポーツツーリズムで、スポーツ庁のWebマガジン『DEPORTARE』にはスノースポーツの紹介があります。日本の粉雪を求めて外国人のニーズが高く、国内人口の減少がありながらも、再び盛り上がりを見せていると述べています。

4 争点と対策

 スポーツ庁と経済産業省などが進めるスポーツ産業政策の主な特徴と問題点をまとめます。

第一に、「するスポーツ」に必要な、主に公共のスポーツ施設は「コストがかかる」から増やさない。

第二に、「金を生む=儲かる」スポーツ産業を育成する。

第三に、「見るスポーツ」を「金のなる木」に育てる。VIPルームなど金を持っている法人や富裕層向けの設備を充実する。

第四に、デジタル技術を「見るスポーツ」に活用する。

さらに多くの特徴を上げることもできますが、これまでの全体を通じて言えるのは、スポーツを儲けの対象として考える「資本の論理」です。

「ホスピタリティ(おもてなし)」は、「スポーツを見る人」が主人公ではなく、見る人はお金を払う消費者にすぎません。難しいカタカナの用語で飾られたヨロイを剥がして見ると、残るのはスポーツで金を儲けようとする、弱肉強食の資本主義の姿ではないでしょうか。「儲かる」スポーツへ転換するという発想そのものが、多くの国民の支持を得られるものではありません。

スポーツの公共性を守るか否か、スポーツを資本の餌食にするかしないか、が重大な争点になっています。だから、新スポ連がまとめた「国・自治体要請内容」という文書は、スポーツの公共性を守り、進めるための対策の一つであり、未来への一里塚となるでしょう。

新スポ連は、「スポーツをすることは人権のひとつ」であり、自分自身がスポーツを「する、見る、ささえる」主人公となる未来社会をめざしています。

スポーツ政策への批判は大事ですが、創造する力は強くありません。ポスト資本主義を見据えつつ、スポーツ産業政策を変える対案を提示してゆく必要があるのではないでしょうか。

文=「ひろば」編集長 西條晃

 

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