そして少女は加速する|スポーツ本Review

宮田 珠己 (著)
幻冬舎 2025年
1,980円(税込み)472ページ
4×100mリレーで夢を逃した 少女たちの、もう一度の挑戦

2021東京オリンピックの陸上男子4×100mリレー決勝。9秒台の選手を3人も擁し、メダル確実とまでいわれた日本チームが、第1走者の多田修平選手から第2走者の山縣亮太選手へのバトンパスを繋げられなかった場面を、ご記憶の読者もおいでになることでしょう。わずか一瞬の綻びが、すべてを奪ってしまう――リレーという競技の過酷さを象徴するできごとでした。

物語の舞台は、物語の舞台は陸上界では名の通った都内のとある高校(高幡高校)女子陸上競技部。登場する選手すべてが主人公です。

インターハイ出場を夢見るスプリンターたちの中には、小中学生時代はそこそこ速かったことをきっかけに高校から本格的に陸上を始めた者もいれば、中学時代から名を馳せたスポーツ特待生もいる。個性も実力も異なる少女たちが、4継(4×100mリレー)に青春を捧げます。

女子の100m平均が12秒台前半なら、単純計算で46~47秒台。しかし4継には30mのバトンゾーンがあり、受け渡しが完璧に決まれば45秒台も夢ではありません。実際、高校女子の最高記録は44秒48。緻密な連係こそが勝敗を分けるのです。

しかし、そのバトンゾーンでの失敗は、選手に大きな重圧と傷痕を残します。物語では、インターハイ出場が確実視されていた高幡高校4継チームが予選で痛恨のミスを犯し、夢を絶たれてしまう。失敗した選手はトラウマに苦しみ、陸上をやめるかもしれないという葛藤に揺れる。それでも仲間とともに再びトラックに立ち、インターハイを目指そうとする少女たちの姿が、部内の軋轢や日常とともに生き生きと描かれます。

トラックを駆け抜ける1分にも満たないドラマ。その一瞬にすべてを懸ける彼女たちの物語は、青春が遠く過ぎ去ったあなたの胸にも、きっと熱い感動を呼び起こしてくれるはずです。

「スポーツのひろば」2026年5月号より

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